外来で働く看護師と違い、往診では患者さんのご家族のケアに携わる機会が多いです。ケアという言葉には身体的なケアや心理的なケアなど様々な意味を含みますが、往診においては心理的なケアの方が重視されます。その中で特に重要なのが「グリーフケア」です。
グリーフケアとは、身近な人の死を体験した人の気持ちに寄り添いながら行う心理的なケアのことです。グリーフは「悲嘆」という意味です。グリーフケアが日本に広まったのは1970年代です。それまでの日本の医療水準はあまり高くありませんでした。近年は病院医療が発展したことで余命が長くなり、それと同時に自宅で死にゆく人を看取る機会も減りました。その結果、突然家族が亡くなるという経験をする人が増え、グリーフケアが求められるようになったのです。
また、1976年にアメリカで「リビングウィル」という考え方が法制化されたこともグリーフケアが普及した要因です。これは、延命治療の有無や人生の最期の迎え方を自分で意思表示できるものです。アメリカでの法制化を受けて、日本ではそれと同時期に安楽死協会が設立されました。また、末期がん患者を受け入れるホスピス病床も建設されるようになりました。「病気を治療する」という考えから「病気を受け入れる」という考え方にシフトしていったのです。
しかし、実際に現場でグリーフケアが行われることはしばらくありませんでした。グリーフケアを必要とする人はいるものの、グリーフケアの存在そのものを知らない人が多かったためです。世の中に広く知られるようになったのは、2005年の福知山脱線事故がきっかけです。突然家族や知人を失い精神的負担を抱えるご遺族のために、グリーフケアに注目が集まりました。また、日本は年間3万人近くの人が自殺をしており、そのご遺族に対してもグリーフケアが求められるようになりました。
グリーフケアを必要とする人には共通の症状があります。「悲壮感」「怒りの感情」「うつ症状」「不安感」「無気力感」「睡眠障害」「食欲減退」「集中力低下」などです。これを放置していると外傷性ストレス障害や精神疾患を発症する可能性が高まります。
看護師がグリーフケアをする理由は、最も患者さんやご家族に近く、医療従事者との架け橋になれる存在だからです。日頃の治療や健康管理を通じて継続的に関わっており、ある程度の信頼関係を構築しています。そのため、患者さんが亡くなった際には身近な存在としてご家族に寄り添ったグリーフケアを実施できるのです。