往診と訪問診療は同じもののように思えます。どちらも医師が患者さんの自宅を訪問して診療を行うものであることには変わりありませんが、役割や目的が明確に異なります。
在宅医療の対象者は医療が必要であるにも関わらず身体機能の低下や障害などの影響で医療機関に行けない人々です。人生の最期を自宅で迎えたいという患者さんの要望に応えるための医療でもあります。高齢化が進み多くの人が高齢者になった日本において、在宅医療の需要は伸び続けていくことが予想されます。なぜなら、すべての高齢者を療養型病床で診ることは不可能だからです。また、厚生労働省の調査によれば国民の60%以上が在宅医療を望んでいることが分かっています。このことから、在宅医療の役割はより一層重要となっていくでしょう。なお、訪問診療と往診はどちらも在宅医療に分類されます。
訪問診療は「定期的・計画的に患者さんの自宅に訪問して診療を行うこと」です。患者さんの病歴や病状、身体機能、生活能力、自宅で療養するにあたっての希望などを加味した上で計画を立てます。必要に応じて歯科医師、リハビリ職、薬剤師などの職種も携わります。医師や歯科医師による診察だけでなく、看護師によるケアや薬剤師による服薬指導、リハビリ職による生活能力開発など、提供する医療サービスは幅広いです。自宅で過ごす患者さんのQOL向上を主な目的として、チームで医療を提供します。医療施設で行われる診療は積極的な検査や治療による予後の改善を優先しますが、在宅医療では継続的なケアを目的としています。急変時には救急対応を行い、必要に応じて近隣病院への診療依頼も行います。
そして往診は、「何らかの突発的な病状の変化があった患者さんからの要請に応える形で自宅に訪問し診療を行うこと」です。そのため、継続的な診療を行う訪問診療とは異なります。あくまで一時的な手段として行うものであるため、イメージとしては「自宅で行う救急医療」といったところです。
以上の通りどちらも在宅医療に含まれますが、行われることには大きな違いがあります。在宅での療養を余儀なくされた、あるいは在宅医療を望む場合、どちらの医療サービスを選択するかで日々の生活が変わります。普段の生活で特に困ったことはなく、有事の際に自力で受診できない場合は往診を選びます。一方、大きな病状の変化はないものの継続的な診療やケアを必要とする場合は訪問診療を利用します。